はじめに
MINLABOインサイトではヘルスケア業界で起こる様々な課題について深堀りをしていきます。本記事では軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)患者の服薬アドヒアランスの問題にスコープします。
※本記事に出てくる言葉
MCI: Mild Cognitive Impairment (軽度認知障害)
PoC:Proof of Concept (概念実証)
背景
高齢化社会に伴い、認知症の前駆段階であるMCI患者が急増しています。2022年時点で実に558万人がMCIであると報告されています。(※厚生労働省研究班による報告より)
MCI患者の特徴として、基本的な日常生活機能は正常であることが挙げられます。ただし、昔よりも時間を要したり、非効率であったり、間違いが多くなったりします。(※日本神経学会:認知症疾患診療ガイドラインより)
MCI患者の服薬アドヒアランス改善のためにICT技術や服薬支援ロボットの活用を模索している医療機関でのヒアリングとソリューション検討につながるPoCのご紹介します。
当初の課題仮説
認知症患者、特にMCI患者の服薬アドヒアランス(服薬遵守)に関して、潜在的に増加する傾向にあるにも関わらず、早期発見の遅れ、症状が顕著ではない事から見逃されがちになり、特にハイリスク疾患の在宅治療シーンでは服薬アドヒアランスの低下を招いているのではないか?
参考文献
Managing medications among individuals with mild cognitive impairment and dementia: Patient‐caregiver perspectives :軽度認知障害および認知症の患者における薬剤管理:患者と介護者の視点
本論文では、患者と介護者のペア32組にインタビューした中で明らかになってきた、MCIおよび認知症の患者がどのようにして多剤併用を管理し、介護者がどのようにその責任を引き受けるかが調査されています。結果、MCI患者は独立して薬を管理する傾向が強く、介護者の介入はエラーが発生した後に行われることが多いとされています。薬物管理における課題は、患者の認知機能の低下に伴い、介護者に負担がかかることが示されました。
重点課題と解決方法
課題1: ハイリスク薬剤の複雑さと管理リスク
MCI患者にとって、複数の薬を適切に管理することは困難な場合も多い。特に、服用時間や服用量等に厳格なルールがあるハイリスク薬剤では、特に管理が大切がだ、誤った服用が健康を危険にさらす可能性がある点、特にフォロー体制が薄くなりがちなMCI患者でのリスクが高くなる可能性。
課題2: 介護者の負担増加とリソース不足
介護者がMCI患者の薬剤管理に介入する必要がある場合、特に患者の認知機能が低下するにつれて、介護者の負担が増加します。生産年齢人口が減少する日本や高齢化が進む先進国では潜在的なリソース不足とサポートの質の低下が想定される。
解決策:ピルボックスやアラーム付きのデジタルデバイスを使用して、患者が適切なタイミングで薬を服用できるよう支援すること。また、薬剤師や医師が患者に対して、服薬の重要性とリスクについて定期的に説明し、モチベーションを高めることも有効。
市販服薬支援ロボットを用いた支援実態ヒアリング
解決策として、前述のようなデジタル化の形として服薬支援ロボットなどが案として考えられるため、すでに市販されている服薬支援ロボットのソリューションとしての実力を調査する意味で下記の様なヒアリングをMINLABOで実施。
調査概要
調査医療機関
市中病院(200床未満、内科メイン、在宅療養支援病院)
取り組みの主な対象患者
ハイリスク薬投与中
MCI(MMSEスコア24点~27点)、または認知症の診断
服薬支援が必要だと主治医が認める患者 ※MMSE(Mini Mental State Examination:ミニメンタルステート検査 認知機能の評価に一般的に使用される。30点満点で、23点以下は認知症疑い)
ヒアリングの結果
MCI患者では、服薬支援ロボットやICT技術による支援を医療従事者が提案した時点で拒否されることが非常に多く抵抗を示した。特に「薬が時間になったら出てくる」という服薬支援ロボットに対する抵抗感は顕著。
軽度~中等度の認知症患者では提案への受け入れは良好だが、ほとんどがデバイスの使用方法を理解できず1か月以内に頓挫しているとのこと。
担当者からは「認知症患者の一般的な症状である短期記憶障害は、新しいことを覚えることが困難になるという特徴があり、ある意味当然の結果だと思われる。認知症になる前から服薬支援を開始することが重要だ。」とのコメントを頂けた。
得られた洞察
冒頭で述べたように、MCI患者には基本的な日常生活機能は正常であるという特徴が存在する。これらの患者は、自分はきちんと服薬していると自己認識しているが、医療従事者や家族など第三者から見ればきちんと服薬できておらず、ここにギャップが存在すると洞察する。
服薬を強いるのではなくMCI患者が自ら使ってみたいと思うようなインセンティブが設定できれば結果は異なる可能性がある。
高齢化に伴いMCIはどんどん増加し、服薬アドヒアランスの問題も顕在化してくることが予想される。医療現場と企業の連携により解決策を生み出し、この現状をブレークスルーできれば社会的意義は非常に大きいだろう。
MCI患者の服薬支援ソリューションのPoC
MINLABOでは、ヒアリングの結果を得て既存の服薬支援プロダクトを提携医療機関と協力してPoCを2024年3月〜6月で実行。その結果をPoC評価としてまとめ、更なるソリューションの考察を行なっています。
※MCI患者の服薬支援ソリューションのPoCの結果にご関心がある企業様は下記よりお問い合わせください。ご面談にてご紹介いたします。
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執筆者 三原 義久:MINLABO 代表
MINLABOについて
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